安全衛生情報センター
労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第57条の2第8項の規定に基づき、通知対象物に係る代替化学名等 の通知に関する指針を次のとおり公表する。 第1 趣旨 近年、国内における化学物質による労働災害の大半は、特別規則による個別規制の対象とならない物質 によるものとなっている。これは、ある化学物質が国によるリスク評価を経て規制対象に追加された場合 であっても、事業者が当該物質の使用を中止した後に、危険性及び有害性を十分に確認せず規制対象外の 物質を代替品として使用し、その結果、十分な対策が講じられずに労働災害が発生する事例が多発してい るためである。 このような労働災害の発生を防止するため、国が行う化学品の分類(産業標準化法(昭和24年法律第185 号)に基づく日本産業規格Z7252(国際連合が策定した化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(以 下「GHS」という。)に基づく化学品の分類方法。以下「日本産業規格Z7252」という。)に定める方法によ る化学物質の危険性及び有害性の分類。以下「GHS分類」という。)により危険性又は有害性が確認された 化学物質(労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「法」という。)第57条の2第1項に規定する通知対 象物(以下「通知対象物」という。))を製造し、又は取り扱う業務を行う事業者に対し、リスクアセスメ ント及び必要な措置の実施を義務付けている。事業者がリスクアセスメントを実施するにあたり、当該通 知対象物の名称や危険性及び有害性等の情報が必要であることから、通知対象物を譲渡し、又は提供する 者(以下「通知対象物譲渡者等」という。)に対しては、法第57条に規定するラベル表示や法第57条の2に 規定する文書(以下「SDS」という。)の交付等を義務付けている。 今般、通知対象物の増加に伴い、今後、危険性又は有害性があると区分されたものの、その危険性及び 有害性が相対的に低い化学物質も通知の対象となることから、リスクアセスメントの実施に支障がない範 囲で、企業の営業秘密情報の保持を保証するべきとされていたところ、労働安全衛生法及び作業環境測定 法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)により、法第57条の2第3項において、一定の条件下で、成 分の化学名における成分の構造又は構成要素を表す文字の一部を省略し、若しくは置き換えた化学名又は 厚生労働省令で定める事項を定め、これを通知することにより、法第57条の2第1項に定める成分に係る通 知に代えることができることとされたところである。 本指針は、法第57条の2第8項の規定に基づき、通知対象物に係る代替化学名等の設定及び通知等の適切 かつ有効な実施を図るために必要な事項を規定したものである。 本指針は、事業者による自主的な安全衛生活動を促進するためのものであり、関係者は本指針の趣旨を 踏まえつつ、化学物質による労働災害の防止に取り組むことが求められる。 第2 定義 本指針における用語の定義は以下のとおりとする。 1 営業秘密 秘密として管理されている製品の情報その他の事業活動に有用な情報であって、公然と知られてい ないもの 2 代替化学名 法第57条の2第3項に規定する、化学名における成分の構造または構成要素を表す文字の一部を省略 し、若しくは置き換えた化学名 3 代替有害性情報 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「則」という。)第34条の2の6の3に規定する、 代替化学名等を通知しようとする成分に関する人体に及ぼす作用に関する情報(法第57条の2第1項第4 号) 4 代替化学名等 代替化学名又は代替有害性情報 5 代替化学名等対象物質 「労働安全衛生規則第34条の2の6の2の規定に基づきリスクアセスメント及びその結果に基づく措 置の実施に支障を生じないものとして厚生労働大臣が定めるもの」(令和8年厚生労働省告示第42号。 以下単に「告示」という。)に規定する化学物質 第3 基本的考え方 通知対象物譲渡者等がSDSを交付等するに当たり、成分を通知することが原則であるが、GHSにおいては、 企業の営業秘密情報の保持を保証するべきとされつつも、当該規定によって、作業者や消費者の健康と安 全、又は環境保護を危うくすべきではない、と明記されていることから、有害性が相対的に低い化学物質 に限り、リスクアセスメントに影響がない範囲内で、化学物質の成分の情報が企業の営業秘密に該当する 情報である場合には、当該成分の情報について代替化学名等の通知を認めることとするほか、次のとおり 代替化学名等の通知に係る基本的な考え方を定める。 1 第4の適用範囲の条件を満たす化学物質の成分の情報が企業の営業秘密に該当する情報である場合 のみ、成分名の通知に代えて代替化学名等の通知が認められ、それ以外の場合には、代替化学名等の 通知は認められないこと。なお、代替化学名等の通知が認められる場合においても、代替化学名等は 譲渡・提供先に必ず通知しなければならないこと。 2 営業秘密の保護が必要な場合であっても、労働者の安全衛生を確保する観点から、代替化学名等の 使用によりリスクアセスメントに必要な危険有害性情報が適切に伝達されるようにすべきこと。 3 SDS上で、代替化学名等を通知した化学物質の成分の情報ごとに「営業秘密」であることを明示し なければならないこと。 4 代替化学名等の通知を行う者は、次の各号に掲げる対応を実施する必要があること。 (1) 第6の1で示す場合において、代替化学名等により通知した成分の情報を適切に開示すること。 (2) (1)の情報の適切な開示のため、第6の2に定めるとおり、成分の情報の開示を求めるための緊 急連絡先を、当該化学物質の譲渡提供先に通知すること。 第4 適用範囲 本指針は、法第57条の2第3項の規定に基づき、化学物質の成分の情報が営業秘密に該当する情報である 場合において、当該成分の情報について代替化学名等を用いる場合に適用する。代替化学名等を用いるこ とができる法第57条の2第3項の厚生労働省令で定める化学物質は、告示で定めるものであり、法第57条の 2第1項で定める通知対象物のうち、次の各号のいずれにも該当するものである。 1 次に掲げる物に該当しないもの (1) 1,4-ジクロロ-2-ブテン、鉛、1,3-ブタジエン、1,3-プロパンスルトン、硫酸ジエチル、労働 安全衛生法施行令(昭和47年政令第381号。以下「令」という。)別表第3に掲げる物、令別表第4第6 号に規定する鉛化合物、令別表第5第1号に規定する四アルキル鉛及び令別表第6の2に掲げる物 (2) 則第577条の2第2項に規定する厚生労働大臣が定める物 (3) 則第594条の2に規定する皮膚等障害化学物質等 2 次の(1)から(3)に掲げる国及び事業者が行うGHS分類に応じ、それぞれ(1)から(3)に掲げる当該分 類の結果のいずれにも該当しない物 (1) 生殖細胞変異原性、発がん性又は生殖毒性有害性が区分されているもの(当該物質の含有量が 混合物の有害性区分に影響を与える濃度(濃度限界)未満であることにより混合物としての有害性区 分に該当しないものを除く。) (2) 呼吸器感作性、皮膚感作性又は誤えん有害性、皮膚腐食性/刺激性、眼に対する重篤な損傷性 /眼刺激性、特定標的臓器毒性(単回ばく露)又は特定標的臓器毒性(反復ばく露)区分1に該当する もの (3) 急性毒性区分1、区分2又は区分3に該当するもの 3 当該化学物質の成分の含有量について、重量パーセントが日本産業規格Z7252に定める濃度限界未 満である物(濃度限界が定められている有害性クラスに該当するものに限る。) 第5 代替化学名等による通知を行う場合の記載方法等 1 代替化学名等の記載方法 代替化学名等は、2の4要素のいずれか1つを一般名へ置換又は削除することにより設定する。ただ し、構造が単純である等の理由により、1要素のみの置換又は削除では化学物質の成分の情報が特定 されるおそれがある場合には、2要素までの置換又は削除を認める。 2 名称構成要素の取扱い 代替化学名を設定する際は、化学名を構成する次に掲げる4つの要素のいずれかを一般名への置換 又は削除により設定する。 (1) 母体化合物の構造 (2) 対イオンの構造及び数 (3) 立体異性体の情報 (4) 母体化合物又は他の置換基に結合する置換基の構造、数及び位置ただし、置換位置番号や母体 化合物の置換基の位置番号及び数は削除し、その他の詳細情報については一般名への置換を原則と する。 3 代替化学名により化学物質の成分の情報が特定されるおそれがある場合の取り扱い 代替化学名等の記載は1及び2の方法が原則であるが、2要素の置換又は削除を行ってもなお、当該 代替化学名に該当する構造を有する代替化学名等対象物質の種類が少ない等の理由により、化学物質 の成分の情報が特定されるおそれが高い場合に限り、当該成分について、法第57条の2第3項の規定に 基づき代替有害性情報を通知することで法第57条の2第1項及び第2項の規定による通知に代えること ができる。 4 留意事項 (1) 代替化学名の設定に当たっては、危険性及び有害性との関連性が理解できるよう配慮すること が望ましいこと。 (2) 代替化学名の使用により危険性及び有害性が労働者に正しく伝達されないおそれがある場合に は、代替化学名の使用を避け、可能な範囲で正確な化学物質の成分の情報を通知するよう努めるこ と。 (3) 代替化学名の設定は、労働者の安全衛生の確保と営業秘密の保護を両立させる観点から運用す ること。 第6 医療上の緊急事態等における情報開示 1 代替化学名等の通知を行う者は、次の(1)又は(2)に掲げる当該化学物質による健康障害が生じ、又 は生ずるおそれがある場合に応じて、それぞれ(1)又は(2)に定めるところにより情報の開示を行うこ と。 (1) 医師による診断、治療のために必要があるとして当該医師が求める場合 代替化学名等により通知した成分の情報を直ちに開示すること。 (2) 産業医又は法第13条の2第1項に規定する医師による労働者の健康管理のために必要があるとし て当該医師が書面で求める場合 その目的に必要な範囲において、代替化学名等により通知した成分の情報に係る秘密が保全され ることを前提として、当該成分の情報を速やかに開示すること。 2 代替化学名等の通知を行う者は、1(1)に定める場合において、医師(医師による指示を受けた者を 含む。)が代替化学名等により通知した成分の情報の開示を求めるための緊急連絡先(当該者が、1(1) に定める情報の開示を行う業務を他の者に委託する場合には、当該受託者の緊急連絡先。第7におい て同じ。)を、当該化学物質の譲渡提供先に通知すること。 第7 その他留意事項 1 通知対象物譲渡者等から通知対象物について代替化学名等を設定して譲渡又は提供を受けた者であ って、第三者に当該通知対象物を更に譲渡又は提供する者は、以下のいずれかをもって法第57条の2 第1項又は第2項の規定による通知に代えることができること。 (1) 通知を受けた代替化学名等をもって当該通知対象物を第三者に譲渡又は提供する場合 当該第三者に対し、あらかじめ当該通知対象物の成分について、代替化学名等の通知を受けた旨 を示した上で、通知を受けた代替化学名等を通知すること。この場合、当該代替化学名等を設定し た通知対象物譲渡者等から通知された緊急連絡先も併せて通知すること。 (2) 新たに代替化学名等を設定して当該通知対象物を第三者に譲渡又は提供する場合 当該第三者に対し、当該通知対象物の成分について営業秘密であることをあらかじめ明示した上 で、代替化学名等を定め、これを通知すること。 2 代替化学名等の通知を行う者は、開示請求に応じるため、代替化学名等その他の情報を当該通知か ら5年間保存しなければならないこと。当該情報の保存期間中に事業を廃止しようとするときは、遅 滞なく、電子メールの送信または電磁的記録媒体等をもって調製するファイルの提出により、当該情 報を代替化学名等の通知を行う者の事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に引き渡すものとす ること。 3 則第24条の15に規定する特定危険有害化学物質等(化学物質、化学物質を含有する製剤その他の労 働者に対する危険又は健康障害を生ずるおそれのある物で厚生労働大臣が定めるもの(通知対象物を 除く。))について、化学名における成分の構造または構成要素を表す文字の一部を省略し、若しくは 置き換えた化学名等による通知を行う場合は、本指針に準じて取り組むよう努めること。